ふぞろいの忍者たち

第一話~ひとり舞台

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2016年9月17日早朝。

拙者は統括からの矢文により、

朝の7時に高井戸駅前にいた。

駅につくと、統括から飛脚が使われ、文を渡された。

「渋滞にハマっちゃって45分くらい遅くなりそう」

困った。統括の45分は経験上、半時(約1時間)越えだ。

近所でいそいそと、茶店が看板を出していた。

「拙者、人を待たねばならぬ。

申し訳ないが、茶を一杯、いただけぬか」

茶店の娘は全力の作り笑いを浮かべ

「どうぞー」

と言ってくれた。

のれんをくぐり、茶を所望し、

それを受け取ると窓際に席を確保した。

……。

ムリっす。ふつうに書くっす。

ミスドでそこそこウマいコーヒーをいただきながら、

スマホでポケモンGOなどやりつつ、待つ。

50分くらいして、LINEが入る。

「あと15分くらいで着くと思う」

なるほど、あと30分か……。

店を出て、環八をゆくクルマを眺めていた。

隣で、土木作業見習風の若者がいた。

話をすると、彼もその地元の人でなく、

この日連れて行かれる場所が未知の現場だそうだ。

そう。拙者の向かう舞台も、初めて行く場所だった。

Amazon.co.jp でおなじみのアマゾンの倉庫でやる

パーティで、浅草鮪組にお声がかかった。

開体演舞の前に、浅草忍組忍者芸をひとつ、

かましてやってほしい、と座長に泣いて頼まれた。

……正確に書く。

どうか、前座をやらせてほしい、と、

拙者は土下座した。

どれが嘘でどれがホントかは、読者に任せる。

煙にまくのが、拙者の構えだ。

そんなわけで、クルマに乗せてもらい、

一路、埼玉のアマゾンさんに向かった。

浅草忍組はこれまで、

テレビで忍者芸を披露したりしている。

たいてい、2人1組でその練りにねった芸を行ってきた。

しかし。

この日は予算の関係で

ひとりでやらなくてはならなかった。

しかも、ワシひとり。

埼玉ひとりぼっち。

こう書くと寂しかろう(埼玉県民、悪意はない)。

この話を受けてから数日前、

拙者は書き物担当の中の人に相談をした。

「座長がまーたムチャをいいはじめた」

「いつものことじゃーないですか」

「とはいえ、今度ばかりはタマランぞ」

「いつもなんとかしてるじゃないですかー」

「中の人。悪い意味で座長のパワープレーに洗脳されてないか?」

「芸は現場でしか磨かれないからねー」

        ↑

座長の一聴当たってるようだが、けっこうムチャな口癖

中の人は血を吐きながら青い顔をしてにこやかに答えた。

やがて、中の人から脚本が届いた。

題:「忍者芸その三 秘術! 絶対安全抜刀術」

拙者は当日のクルマにまでその脚本を持ち込み、暗記していた。

そもそも、本が届いてからというもの、

布団の中で、トイレの中で、

どんでん返しの向こう側で、ずっと稽古した。

イメトレが多かったけれども。

その結果は、いやがおうでも訪れる、

この渋滞が解消されれば、すぐに現場だ。

さて、いよいよ本番。

ひとりきりで数十人はいるであろう

お客さまを前に構え、芸を披露させていただいた。

内容は割愛する。生で見ていただき、

我ら浅草忍組の忍者芸を体験してもらいたいからね。

体験型だからな、ワシらの芸は。

とにかく、我ら浅草鮪組一座は

ほうほうのていで帰路につき

(みな、夜型人間なので朝に弱く

昼間の暑さにあたるとトロけてしまう)、

どうにかOHANAに辿り着いた。

で、録画した映像を観ながら反省会。

浅草忍組の忍者芸、今回アタリだったねー」

「やっぱ、浅草忍組はこうじゃなくちゃイカンよ」

と座長にお褒めのお言葉をいただく。

統括の華さんは、

「大笑いしてる女の人たちとかいたよねー。

正直、急だったから心配したけど、ウケてたねー」

と、これまた喝采をあびる。

解せぬ。

自分で書くが、拙者はネガティブが

忍び装束を着て歩いているようなもんである。

笑っていたのは子どもたちで、

もっと書いてしまえば、笑ってたんじゃなくて

笑われてただけなんじゃないか、と。

忍者芸が終わってマイクを置く手が

ガタガタガタ震えていたあの感触は、

おそらくしばらくは忘れないだろう。

「最初はそんなもんだよー」

と、何百匹とマグロを開いてきた座長は言う。

ちょっと説得力があった。

「なんか、笑いとってるからジェラっちゃったよ」

こう言った座長の目は、すこしすわってた。

単純に寝てないから眠たかっただけだと思いたい。

座長が開体演舞の口上のあと、

笑いをとりにいこうとして軽く滑っていたのも見逃していない。

座長を本気にさせたんだから、成果アリと素直に思えるまで、

拙者はOHANAで焼酎の炭酸割をくいくい呑みましたとさ。

 

早朝、高井戸駅そばのミスドの窓より環八を見つめていた。連休の初日なんだから、そりゃ、クルマはこんな時間でも多いよね。そういうのに頓着しない自営業な人たち。忍者は浅草忍組三箇条其ノ弐にならい、臨機応変に待ち対応してた。カフェイン中毒なんじゃないかってくらい、コーヒー大好き。

早朝、環八を見つめていた。連休の初日なんだから、そりゃ、クルマは多いよね。、浅草忍組三箇条其ノ弐にならい、臨機応変に忍んでましたとさ。

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